【書評】『事業をエンジニアリングする技術者たち』レビュー
キャンペーンで書籍をいただきました。 ありがとうございました。
事業をエンジニアリングする技術者たち Engineers in VOYAGE ― 事業をエンジニアリングする技術者たち | 株式会社VOYAGE GROUP, 和田卓人 |本 | 通販 | Amazon
内容
Voyage Group の各事業へ、インタビュー形式でソフトウェア開発の進め方を聞いていく内容。
各章毎に異なる事業部が、どういった事業で、どのような技術を使っていて、
どういった部分に課題があり、どう解決してきたかが語られる。
簡単に各章をまとめると
- 第1章 fluct - 広告配信の舞台裏の技術者たち
SSP、10年もののシステムでの管理画面のリファクタリング - 第2章 Zucks - フルサイクル開発者の文化
アドネットワーク・DSP、fluct から切り離した別システムとしてのリリース - 第3章 VOYAGE MARKETING - 20年級大規模レガシーシステムとの戦い
ECサイト、レガシーシステムからの脱却・改善 - 第4章 VOYAGE Lighthouse Studio - 数十万記事のメディアをゼロから立ち上げる
ゲームメディア、新サービスの立ち上げ - 第5章 サポーターズ - 事業の成長を止めない手段としてのシステム刷新
就活サービス、システムリプレイス - 第6章 データサイエンス - エンジニアによるビジネスのための機械学習
Zucks、データ分析を事業にどう活かすか
総評
ソフトウェアの開発秘話みたいなのは、イベントで少し語られたり、人づてに聞くくらいのもので、
あまりこういった書籍の形ででてこないので貴重だと思った。
業界にいる人なら共感する点が多く読み物としても楽しめ、ソフトウェア開発の進め方としてもかなり参考になるものだと思う。
こういったノウハウみたいなものは価値がある分、会社内部でしか共有されない事が多いと思うが、
オープンソースと同じく公開することでその企業のアピールにもなると思うので、増えていってほしいと思った。
良かったところ
- 既存のシステムをビジネスの変化に合わせていくための手段に、漸進的な改善(リファクタリング)、構造的な改革(リアーキテクティング)、作り直し(リプレース)があるが、それぞれの事業でどういった状況でどういった理由でその手段を選択し、どうやってそれを進めてきたかが面白かった。
- インタビュー形式のおかげて、話を深堀りできたりツッコミが入ったりしていて、より立体的に読み解けたのがよかった。それこそ座談会に呼ばれて面白い話を聞けている感覚でよむことができた。
- こういった「改善」話だと、その状況を作ったシステムに対して悪口みたいなことを言ってしまうことがあるが、この本では前任者へのリスペクトが節々で感じられた。技術的負債は能力が足りなくてできるのではなく、その時その時の制約の中でなんとかやってきたもんだよね、という意識がよかった。
- 自分自身、広告配信システムの管理画面のリプレースしたことがあったので、共感できる一方、もっとこうしておけばよかったとか、そもそもあの判断どうだったんだろう、と振り返りができた。
注意しなければいけないと思ったところ
- この本の個別のプラクティスだけを切り取って参考にすると、大やけどするんじゃないかと思った。例えば、つよつよなエンジニアが自由に動ける環境は良いけど、ビジネスに興味ない人が新技術試したいだけで技術導入だけしたらやばいだろうな、とか。全体としてうまく動く仕組みをひっくるめて、エンジニア文化と呼ぶんだろうなと思った。
- ドキュメントについて、私も苦しんだけど、結構苦しんでるんだなーと思った。GitHubのIssueに経過含めて記述するのはいいけど、個々の機能知ろうと思ったときに検索大変じゃないか、全体像都度共有するといっても抜け漏れあったときにそもそも抜け漏れ自体気づけないのではないかなど。それこそエピソードでもあったが、普段の開発は順調に見えていても、いざリプレースとなったときに、あれ、仕様なんだったっけ?みたいに後々困るところがまさに負債っぽいなと思った。
- もっと失敗談みたいなのを聞けたら面白いなと思った。成功の要因は複合的でよくわからないことも多いが、失敗の原因は結構はっきりすることが多いから、参考になりそう(笑)
- 本にところどころコラムで用語を解説してくれるが、客観的な説明と主観的な説明が入り混じっていて、読み解くのに少し手間取った。
次に読む本
こういった開発の本あまりないから、もしあったら知りたい。
類書で思い当たるのは、古い本だが Windows NT の開発秘話(デスマーチ...)を綴った 『闘うプログラマー』 は読んで面白かった。
同人誌のような形式で紹介する本も何度か見かけたので、今後はそういった形で増えていくのかも知れない。