【書評】『暗号解読 下』サイモン・シン

総評

★★★★★

暗号解読 下巻 (新潮文庫 シ 37-3)

暗号解読 下巻 (新潮文庫 シ 37-3)

第二次世界大戦後、暗号技術の発展はコンピュータを用いることで更に加速されていく。
サイモン・シンはとにかく話しがうまい。
単に技術の羅列ではない、エピソードがある。

感想など

  • Ⅴ章 言語の壁

アメリカが第二次世界大戦中にナヴァホ語を暗号として用いていたのは面白かった。
未知の言語を暗号とし用いた例。
日本軍はこれを解読できなかった。
古代の失われた言語の解読も頭が下がる。

  • Ⅵ章 アリスとボブは鍵を公開する

コンピュータを用いることで、データをスクランブルする能力は飛躍的に増大した。
その一方で、秘密鍵をどうやって相手に伝えるかという鍵配送問題は依然大きな問題として残っていた。
それに対して数学を用いて、公開鍵と秘密鍵を使うことで安全にメッセージを交換できるRSAが開発された。

コンピュータの原型、RSAと同じようなアルゴリズムは、アメリカの研究者が初めて開発したことになっているが、
実はイギリスも密かに同じ発見をしていたが、国家の利益のために隠蔽していたらしい。
国家の利益のため隠蔽していたそうだが、もしこれを公開して情報技術がアメリカではなくイギリスで花開いていたら イギリスの覇権も長く続いたかと思うと、その皮肉には笑うしかない。

  • Ⅶ章 プリティー・グッド・プライバシー

国家が犯罪者対策のため、暗号を解読する権利を持つべきか、
それとも市民の権利として暗号技術を持てるようにするべきか。
これは技術的というよりむしろ社会的な問題である。

古典的な論点ではあるが、近代以降は結局市民がエンパワーされることによって社会が発展してきたと思う。

  • Ⅷ 章 未来の量子へジャンプ

こちらは、暗号技術の「未来」の話
量子コンピュータが実装されれば、コンピュータの処理速度が圧倒的に早くなり、
暗号が破れれてしまう。
2018年現在、量子コンピュータは着々と現実に向かってはいる。
量子コンピュータのプログラミングは煩雑すぎるし、PCは高いしでまだ実用的ではないが、
時間の問題かもしれない。

一方で、量子の性質を利用した、量子暗号も考案されている。
こちらも理論的には解読不能なのだが、まだまだ実用には程遠い。

次に読む本

暗号技術入門 第3版

ソフトウェアエンジニアだったらさらに技術的に踏み込んだことを知っていて良いと思う。